2012年10月アーカイブ

本年5月に「再生医療を推進する議員の会」を再生し、以来、計7回に渡って議連総会を開催し、わが国再生医療の最前線で活躍されているトップ研究者の先生方(11名)を招いてご講演頂きました。毎回、関係省庁および法制局からもご参加頂き、研修、議論を重ねて参りました。9月8日には、東京女子医大と早稲田大の共同研究施設であるTWInsを視察させて頂き、医学と工学の連携により最先端の研究が進められている現場を直接知ることができ、新法制定に向けて機運が高まり、その作業に入っております。

これまでの議員連盟における活動状況を総括するとともに、今後の展望についてご報告致します。

 

1回(平成2459日)

講師

岡野光夫先生 「再生医療の実現に向けて」

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加藤幸夫先生 「無血清再生医療の事業化について」


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   岡野光夫先生

日本において、医薬品の輸入額が近年急激に増加して輸入超過となっていること、再生医療分野における技術開発、インフラ整備、法整備の面で日本は諸外国に後れを取っていることについて詳細にご説明頂きました。この状況が続くと、再生医療分野において、せっかく日本発の貴重な最先端技術があるにも関わらず、これを活かし切れず、諸外国の後塵を拝してしまうことに対して危機感を表明され、早急に新たな法制度を含む枠組みを整備することの必要性についてご講演頂きました。

   加藤幸夫先生

無血清培地の研究と事業化について、ご講演頂きました。再生医療において、無血清培地を使用することによるメリットについて詳細にご講演頂き、今後、自家移植(自分の細胞、組織を移植すること)、他家移植(自分以外の者の細胞、組織を移植すること)において大量の細胞が必要となることが予測されるなかで、無血清培地の技術が非常に有用であるとご説明頂きました。

 

2回(平成24523日)

講師 

坂井田功先生

自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法の現状と世界の状況」    

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佐藤正人先生

「関節軟骨の再生医療と軟骨修復に適した体内環境の構築」

             

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 <ご講演サマリー>

レントゲンで変形を認める患者数が2530万人、痛みなどの症状を有する患者数が820万人と推定されている変形性膝関節症の本質は、軟骨が変性することに伴う関節機能の破綻であり、日常生活動作(ADL)を下げるばかりか、生活の質(QOL)の低下も招き、人的社会的損失は計り知れないものがある。我が国が直面している未曾有の超高齢化社会で健康寿命を縮める原因(要支援となる原因)の第1位が関節疾患19.4%(平成22年国民生活基礎調査)であると報告されている。日本整形外科学会では、要介護、要支援となる可能性の高い運動器疾患群をロコモティブシンドロームとして、その啓発に力を入れているが、変形性膝関節症はその代表疾患であり、この疾患の克服が急務である。

軟骨を再生させることは容易であると当初は考えられており、最近まで再生医療の第1世代として扱われてきた。それは、運動に欠かせない関節に存在する軟骨と、それに対して形を保つだけで皮下に存在する耳や鼻の軟骨とは、機能が全く異なるにもかかわらず、一部の研究者が混同して扱ってきたためである。硝子軟骨だけで構成されている関節軟骨の再生は、はるかに難しく喫緊に克服しなければならない重要テーマである。米国をはじめとする諸外国では既に2万例近い自己細胞による再生医療の手術症例の蓄積がある。しかし、その対象疾患は小さな外傷性病変であり、再生医療が真に必要とされる変形性関節症の治療には20年近く経過した現在でも、未だに到達する気配すら感じられない。このことからも関節軟骨を再生させることが、いかに難しいことなのかが推察できる。

自己細胞による軟骨再生医療に関しては、東海大学の倫理委員会で「細胞シートによる関節治療を目指した臨床研究」として承認され、さらにヒト幹細胞臨床研究として厚生労働省へ申請し、厚生労働大臣通知(厚生労働省発医政10033号平成23103日)により、東海大学医学部付属病院において実施が認められ、平成231129日に第1例目の自己軟骨細胞シート移植が実施された。従来の再生医療とは異なり、日本で初めて変性した関節軟骨にも適応が認められたものである。

一方で、将来的な治療の普及という観点から、免疫応答の低い軟骨では、レディメイドの同種(他人由来)の細胞シートでの実施が不可欠と考える。3-4週間かかる培養工程というタイムラグを排除し、目の前の患者をすぐに治療できるようにしなければ、一般的な治療としては普及しないであろう。骨・軟骨は昔から同種組織移植が経験的に行われてきたことからもわかるように、免疫反応は低く、免疫抑制剤を必要としない数少ない臓器(組織)の1つである。こうした臓器(組織)特異性を生かして、関節軟骨では、レディメイドの同種細胞シートによる再生医療が可能なはずである。そのために、安全性と免疫応答に関しての詳細なデータを蓄積し、臨床応用のためのエビデンスを構築する必要がある。

残念ながら自己細胞による再生医療では、日本は欧米ばかりか、アジア諸国にも後塵を拝している。現在実施している自己細胞シートの臨床研究と同様に、同種細胞シートによる軟骨再生医療を早期に実現しなければならない。そのために、まずはヒト幹細胞臨床研究として厚生労働省へ申請して、速やかに臨床応用へ移行しなければならない。将来的に企業への導出も考慮に入れて、日本独自の技術を組み込んだ研究開発を実施し、同種細胞シートによる再生医療を可能とする臨床・研究環境を整備し、同種の分野においては、欧米と互角以上に渡り合うためにも、基礎的なエビデンスを構築しながら、同種移植に積極的な方々との連携を深めていくことが急務と考えている。


   坂井田功先生

自己骨髄細胞を用いた肝臓の再生療法について、ご講演頂きました。患者本人の骨髄細胞から幹細胞を分離して点滴を行い、肝臓を再生し、肝機能を改善させた実例について詳細にご紹介頂き、肝硬変に対する自己骨髄細胞治療の可能性と限界についての内容でした。

   佐藤正人先生

軟骨の再生医療について、ご講演頂きました。現在、日本では健康寿命を縮める原因の第1位が関節疾患であるとの報告ことから、軟骨にかかる再生医療の研究促進は高齢社会において国民のQOLを高め、高齢者福祉に大きく寄与できる旨ご説明でした。現在行われている細胞シートを使った治療法についてご紹介頂き、今後の展望について、他家移植の普及が不可欠であり、基礎的エビデンスを構築しながら推進に努めていきたいとの内容でした。

 

3回(平成24530日)

講師

澤芳樹先生

再生医療はわが国で医療の王道を歩めるか?      

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 <ご講演サマリー>

最近、重症臓器不全治療の解決策として新しい再生型治療法の展開が不可欠と考えられる.特に、最近、幹細胞学研究が画期的に進歩し、各臓器における遺伝子治療や細胞移植は臓器機能を改善する事が報告され、その臨床応用が開始されている。

我々は心筋再生として自己筋芽細胞シートによる心筋再生に取り組んできた。自己骨格筋細胞によるシートの前臨床試験での良好な結果から、DCM&ICMに対する臨床試験を開始し、補助人工心臓から離脱するほどに心機能が回復し、大きな有害事象もなく良好な結果を得ている。

我々が行っているような幹細胞等を用いて必要な組織を再生する「再生医療」技術を広く国民の元へ届ける一つの方法は薬事承認の獲得であるが、いわゆる「先端医療技術製品」は製造方法等が従来の医薬品や医療機器とは異なるため、その審査にはこの分野の高度な専門知識が必要である。その上技術の新規性が高く、安全性の評価方法等、規制側が審査にあたっての明確な基準を提示することすら困難な場合がある。このような先端医療技術の審査にあっては、審査側が一方的に規制するだけでなく、申請者(開発者)側と審査側が時に同じ目線で協力しながら、審査の過程の中で製品ごとの現実的な至適基準を設定していく手法も必要であり、こうした審査手法は、欧州(欧州医薬品審査庁)や米国(連邦食品医薬品局)で実際に確立されつつある。  

日本でも最近、審査担当官の増員や細胞・組織由来製品の安全性基準の明確化等が行われたが、肝心の審査手法は、残念ながら未だ一般医薬品の審査の延長に過ぎず、これが過度の審査データ要求や審査期間の長期化を招き、さらには先端医療技術の製品化が海外各国と比べて大きく遅延する一つの要因となっていると考えざるを得ない状況である。

そこで、日本再生医療学会では、再生医療製品の規制への提言として、1)レギュラトリーサイエンスの充実 2)専門家のPMDA派遣、ガイドラインの策定 3)薬事戦略相談の充実とPMDAの体制強化 4)薬事法における再生医療製品の位置づ5)GCPICH-GCPとの比較による見直し 6)医師主導治験の審査体制整備7)培養施設と培養人員等の要件策定をまとめて医薬品等制度検討部会にて提言し、再生医療に対する審査の規制改革を推進しつつある。

 我が国には薬害エイズ、薬害肝炎といった苦い経験があり、ことに医療分野における新しい技術に対しては、期待と同時に、安全性への国民の厳しい目がある。しかし、他に代替療法がなく死が極限に迫り、新しい治療の開発の光明を渇望している難病重症の患者も多数存在する。したがって、技術立国を標榜する我が国において、先端医療技術開発研究の成果を国民に還元するには、薬事規制当局と開発者が一体となって、製品化を進めていく審査体制の確立が急務である。


   

西田幸二先生

角膜の再生医療

      

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 <ご講演サマリー>

ヒトは外界の情報の80%を視覚から得ているとされており、難治性の眼疾患により生活の質QOLが損なわれている数多くの患者が存在する。例えば、網膜色素変性症、重症の緑内障や黄斑変性、Stevens-Johnson症候群などの瘢痕性の角膜疾患などである。これらの病気のために、多くの患者が失明状態にある。その克服のために、再生医療や人工視覚、バイオ医薬品の開発など、先端的な治療法の開発が世界中で展開されている。眼は外界に接している器官で、種々の介入が行いやすいということや、その結果を直接観察して評価しやすいなどの利点があり、先端的医療の導入が進んでいる領域である。

近年産学官が連携して、再生医療の実用化に向けたプロジェクトが展開されおり、眼疾患、骨疾患、心不全、肝不全、糖尿病、パーキンソン病、脊髄損傷など、種々の難治性疾病の治療も夢物語ではなくなってきた。この背景にあるのが幹細胞やバイオマテリアルの基盤的な研究の発展である。殊に網膜や角膜等の眼組織には大きな期待が寄せられている。角膜においてはすでに一部の疾患に対して、我が国で世界に先んじて再生治療法の臨床試験が開始されている。また、網膜疾患についても胚性幹細胞を用いた初めての治験が米国で進められているところであり、我が国においても、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた網膜の再生医療の臨床治験の計画が進められている。

さて、現在角膜移植術が必要な患者は全世界で100万人以上と見積もられている。しかし、実際に角膜移植を受けている患者数は年間6万人足らずであり、多くの国で提供眼球不足が大きな問題となっている。また、術後に生じる拒絶反応が大きな問題点となっている。このような現在の移植医療が抱える問題点を抜本的に解決するため、患者自身の細胞を用いた再生医療の開発が待望されてきた。我々は患者自身の口腔粘膜から角膜上皮の代用となりうる組織を作製し、それを患者の治療に世界で初めて応用し、現在まで良好な成績を得ている。また、iPS細胞を用いた角膜再生医療の開発も進めている。

本講演では角膜の再生医療の現状について紹介し、臨床への実現化という視点から、眼疾患の再生医療の開発がどのステージにあるかをお話ししたい。


   澤芳樹先生

心筋の再生医療として自己筋芽細胞シートによる方法をご講演頂きました。幹細胞等を用いて必要な組織を再生する「再生医療」技術を広く国民の元へ届ける一つの方法は薬事承認の獲得であるものの、現状においては再生医療の特性を十分に反映した審査手法がとられていないため、実用化、製品化が非常に遅れていることに懸念を示されました。この解決のためには審査体制の改革が必要であると問題提起されました。

   西田幸二先生

眼の角膜の再生医療の現状について、ご講演頂きました。角膜移植には、提供眼球の不足や術後の拒絶反応といった問題があり、このようなデメリットを抜本的に解決するには再生医療による治療手法が期待されていること、実際、患者自身の口腔粘膜から角膜上皮の代用となる組織を作製して、それを患者の治療に世界で初めて取り組まれ、良好な成績を得ている実例についての詳細なご講演でした。


4回(平成2466日)

ディスカッション  「再生医療に関する新法整備、法改正を見据えて」

 

これまでの講演を踏まえ、内閣官房、厚生労働省、文部科学省、経済産業省、PMDA、法制局も交えて、再生医療における現状の課題について議論し、今後の新法制定に向けて更に議論を進めていくことを確認しました。

 

5回(平成24627日)

講師

江口晋先生

「肝臓領域での移植・再生医療の現況」

      

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<ご講演サマリー>

肝臓について:肝臓は人体で最大の臓器である。その機能は、アルブミンや凝固因子の合成、栄養素の貯蔵、アルコールやアンモニアの代謝等500以上ある。さらに、肝細胞、胆管細胞等多種の細胞により複雑に構成されており、人工臓器としての実用化が非常に困難である。
肝疾患治療の現状:ウイルスや薬剤等が原因となる非代償性肝硬変では、5年生存率が内科的治療では20%未満であるのに対して、肝移植では70%以上であり唯一の確立された根治的治療法となっている。しかし、肝移植は、侵襲が大きい、高額、免疫抑制剤継続による感染や新規病変出現等の問題点を有する。さらに本邦では欧米に比較して脳死ドナーからの移植は少なく、日本臓器移植ネットワークに登録した1438(累計登録)中、脳死肝移植を受けることが出来たのは9%に過ぎず、36%は待機中死亡したと報告されている(日本移植学会 臓器移植ファクトブック2011)。また、肝は生命維持に必要な様々な物質を合成しており、先天的にこれら機能が欠損している「遺伝性肝疾患」の患者が存在する。出血の際、血液を固める凝固因子の欠損もこれに含まれ、これが先天的に欠損している疾患の一つが血友病Aである。血友病A患者は定期的な凝固因子VIII製剤を補充することにより生命の維持は可能であるが、1年間に要する製剤費は約1,500万円である。
肝再生医療の現状:少ない肝細胞・幹細胞より肝臓を体内外で再生することが可能となれば、多くの肝硬変や遺伝性肝疾患患者の福音となる。温度応答性細胞シートを用いた再生医療工学では角膜、心筋、骨などでは再生医療がすでに臨床応用されている。しかし肝臓は500以上の多機能であるとともに、多種の細胞からから構成される複雑で大きな臓器で有ることより、再生医療研究は立ち遅れているのが現状である。最近では骨髄由来のstem celliPS細胞を用いて自己細胞より肝細胞を作製する試みがやっと成功し始めてきているが、臓器作製には及ばず、今のところ生体、脳死肝移植以外に患者救済の道は求められている。
肝再生医療の波及効果:肝移植待機者の救命、遺伝性肝疾患の根治、ドナー不足の解消(生体ドナーの削減)、低侵襲医療、免疫抑制剤からの離脱、高額な医療費負担の軽減等、期待できる。


 

岩田隆紀先生

「細胞シート工学に基づいた歯周組織の再生」

      

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 <ご講演サマリー>

歯周病は細菌感染による炎症性の骨破壊であり、通常、失われた組織は元には戻りません。既存の治療法では病態の進行を止めることは出来ても、機能障害・審美障害が起こり、再発のリスクも高いことからQOLを損なう原因となっております。また、口腔内の限局的な疾患と考えがちな歯周病ですが、近年、糖尿病・心臓血管疾患・感染性心内膜炎・未熟低体重児出産などのさまざまな全身疾患との関連性が指摘されております。よって、今まで困難であるとされてきた歯周組織を再生させることは、多くの恩恵を国民にもたらすと考えられております。

歯周組織の再建は硬組織である歯槽骨・セメント質のみならず、両者を牽引しショックアブソーバーとなる軟組織の歯根膜の再生が必須です。この難題に立ち向かうために歯根膜由来の幹細胞を私共は用いております。歯根膜には多分化能を持つ間葉系幹細胞様の細胞集団が存在し、上記の硬組織・軟組織を同時に再生することが可能であることがわかってきました(Lancet 364:149–155, 2004)。また、本学で開発された「温度応答性培養皿」を用いることで細胞外マトリックスを豊富に含む「歯根膜細胞シート」の作製に成功しました。このように高次構造をもつ細胞シートの開発により、細胞懸濁液による注入のように拡散することなく、細胞を狙った場所に必要な厚みを伴って移植することが出来るようになりました。このように「幹細胞生物学」と「細胞シート工学」を融合させることにより、小型動物から大型動物までの一連の動物実験にて歯根膜細胞シートの有効性・安全性が確認されたので、ヒト臨床への移行を決意しました。ヒト抜去歯からの歯根膜細胞の採取法・培養方法を詳細に検討し、現在までに、安定してヒトの細胞シートを作製することに成功しております。

歯周領域における本邦での細胞治療を用いた臨床研究は他分野と比べても非常に盛んに進められており、すでに4種類の細胞ソースを用いた臨床研究が4大学で開始されております。また、これらの4大学ではお互いに連携し基礎系研究者の意見も取り入れ、「歯周組織治療用細胞シートに関する評価指標」(平成23年12月厚労省より発出)の策定にも関わりました。私共のグループでは、平成12年より研究を開始し、平成23年より「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」への適合性が承認された臨床試験「自己培養歯根膜細胞シート移植による歯周組織の再建」を開始しております。本会におきましては、私共の臨床試験の進捗状況と、実際に臨床を行っている実施者としての現場からの意見を述べさせていただきたいと考えております。


   江口晋先生

肝臓領域での再生医療による治療の現状についてご講演頂きました。肝臓は人体で最大の臓器であり、多種の細胞により構成され、多様な機能を有すること、肝疾患治療においては特に肝硬変や遺伝性肝疾患患者にとって、再生医療は福音となると言う素晴らしい内容でした。再生医療の波及効果として、肝移植待機者の救命、遺伝性肝疾患の根治、ドナー不足の解消、高額な医療費負担の軽減などが期待できるそうです。

   岩田隆紀先生

細胞シートを利用した歯周組織の再生についてご講演頂きました。歯周病は、既存の治療法では、病態の進行を止めることは出来ても、機能障害・審美障害が起こり、再発のリスクも高いことからQOLを損なう原因であること。糖尿病・心臓血管疾患などのさまざまな全身疾患との関連性が指摘されており、再生医療により歯周組織を再建することは多くの国民に恩恵をもたらすとの内容でした。さらに歯周組織の再建は硬組織である歯槽骨とセメント質だけでなく、両者を牽引しショックアブソーバーとなる軟組織である歯根膜の再生が必須であること。この困難な課題の解決のためには、歯根膜由来の幹細胞を用いた歯根膜細胞シートの開発が不可欠であるということでした。

 

6回(平成2473日)

講師

本望修先生

「脳梗塞に対する自己骨髄幹細胞の移植による再生医療」

      

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   本望修先生

脳梗塞に対する再生医療として、自己骨髄幹細胞を移植する方法による治療についてご講演頂きました。これまでの知見では、脳神経疾患等によって損傷を受けた神経は再生しないと考えられてきたところ、骨髄細胞の中の間葉系幹細胞が脳梗塞の後遺症に対する機能回復に有効であることが判明したため、これを培養して静脈内へ投与することで脳神経の再生を促す治療法について、驚異的な回復を遂げた患者の実例も交えながら画期的な内容でした。

 

第7回(平成24717日)

講師

山中伸弥先生

iPS細胞研究の進展」

      

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<ご講演サマリー>

病気や怪我で失われた組織や臓器を再生する研究は数十年前から進められてきた。今から10年ほど前に初めて報告されたヒト胚性幹(ES)細胞は、分化多能性や高い増殖能をもち、あらゆる組織や臓器の細胞を作り出す能力により、様々な難治性疾患に対する再生医療が可能になると期待されてきた。しかし、受精卵の犠牲による倫理的問題、また移植後の拒絶反応の課題があった。これらを回避するため、私たちは、ごくありふれた細胞から有用な幹細胞を作りだす研究に着手した。その結果、僅か4つの遺伝子の導入により、2006年にマウスの、2007年に人間の皮膚線維芽細胞から人工多能性幹(iPS)細胞を樹立することに世界で初めて成功した。

患者から樹立されたiPS細胞はES細胞と良く似た性質をもつことから、パーキンソン病、脊髄損傷、心筋梗塞、糖尿病などに対する細胞移植治療への有望な資源として注目されている。また、研究が困難な様々な病気のメカニズムの解明や、新しい薬の探索、薬剤の有効性や副作用の評価にも役立つと期待されている。iPS細胞は様々な年齢の日本人の体細胞からでも樹立できることが確認されており、それらの細胞の多能性に大きな違いはない。しかし、細胞移植治療への応用を考えたとき、樹立に要する時間短縮、コスト削減という課題がある。そのため、様々な移植適合型の提供者からiPS細胞をあらかじめ樹立しておき、「再生医療用iPS細胞バンク」を構築していくことを考えている。

現在、世界中の多くの大学や企業の研究者がiPS細胞研究に参入し、樹立方法は急速に改善されつつあり、iPS細胞から神経、心筋、血液など様々な組織や臓器の細胞に分化することも報告されている。多くの皆様のご支援を受けて竣工した新研究棟で、私たちは今後10年全力で研究を進め、iPS細胞に立脚した新しい医学を生み出したい。



中島美砂子先生

「歯延命化による健康長寿を目指した歯髄再生医療の実用化に向けて:現状と展望」

      

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<ご講演サマリー>

歯は噛むことのみならず、味覚・触覚・発音・審美性などの口腔の機能に重要な役割を果す。また、歯の咬合機能は全身の恒常性の維持に関わり、噛むことが脳に刺激を与え認知症の防止に役立つともいわれている。厚生労働省が推進する8020運動(80歳でも自分の歯を20本残存させる運動)の達成者は、要介護率が低いとともに、一般医療費も約20%抑制できると報告されている。すなわち、歯を長持ちさせることにより、高齢者のQOLの向上を計り、国民の医療費削減・福祉経済の安定に寄与することができる。

 歯を失う原因の約半分はう蝕とそれに伴う歯の破折である。う蝕が進んで細菌が歯髄(神経)まで達すると歯髄を除去(抜髄)しなければならなくなる。歯から歯髄がなくなると、歯は脆くなり破折しやすくなる。また、抜髄後に適切な処置をしても、根尖性歯周炎(根の下に膿がたまる病気)を発症(約10~30%)することもある。最終的には抜歯になる可能性が高くなる。すなわち、歯髄を保存することは、歯の延命につながる

 そこで、私どもは、歯延命化による健康長寿を目指して、「歯髄幹細胞および遊走因子G-CSFを用いた新規の象牙質・歯髄再生治療法」により、従来のう蝕・歯内治療技術に革新をもたらす臨床研究開発を行っている。歯髄幹細胞は、近年開発した新規の幹細胞分取器を用いて高効率に分取し、安全性、安定性、有効性を確認している。また、非臨床研究での歯髄再生の安全性、有効性試験を終了し、現在、厚生労働省にヒト幹細胞を使用した歯髄再生の臨床研究を申請中である。歯髄組織は、親知らずなどの歯から低侵襲に採取可能であり、骨髄・脂肪組織に比べ幹細胞の含有率が高い。また、歯髄幹細胞は遊走能に優れ、骨髄や脂肪幹細胞に比べ高い血管新生能・神経再生能を有する。ただし、歯髄を供給できる歯がない場合は、再生量は劣るが、脂肪や骨髄幹細胞を用いても歯髄・象牙質再生は可能である。また、中高齢者においても、年齢による幹細胞形質の変化はなく、若齢者と変わらずに歯髄を再生できる。さらに、感染根管歯(根尖性歯周炎発症)においても歯髄再生治療は適用できる。よって、年間約4,000 万件の症例に適用できる可能性がある。

私どもは、この歯髄再生治療をいち早く国民に提供するとともに、世界に拡大できる日本初の新規事業の創成を強く願っている。しかし、臨床研究や治験に関して必要以上の費用と時間がかかるため、企業参入が得られにくいのが現状である。そのような状況回避のためには、適切な法整備、審査の迅速化・能率化が必要である。また、最先端技術の適切な評価のための人材育成、開発側と規制側の早期からの交流による最先端技術知識の共有等、実用化までの期間短縮により企業の参入障壁を低くすることが早期事業化促進のために不可欠と考える。迅速に技術開発ができるように、必要な数の専門知識を有する研究員の確保が必要である。国際特許を戦略的に押さえられるような支援体制も構築すべきである。先進医療を受けた場合、患者が全額負担を余儀なくされる現状の医療保険制度の在り方も見直す必要があると考える。歯髄幹細胞は歯髄再生ばかりでなく、虚血性疾患、神経損傷などの他組織の再生医療の有用な細胞源になりうると期待され、高品質で安全性の高い自家あるいは他家細胞バンクの早急な普及のための法整備が望まれる。


   山中伸弥先生

iPS細胞研究の進展について、ご講演頂きました。従前のヒト胚性幹(ES)細胞による再生医療における、受精卵の犠牲による倫理的問題、また移植後の拒絶反応の課題を克服するために、ごくありふれた細胞から有用な幹細胞を作りだす研究に着手されたこと、その結果、2007年には人間の皮膚線維芽細胞から人工多能性幹(iPS)細胞を樹立することに世界で初めて成功した等の内容でした。今後に向けては、様々な移植適合型の提供者からiPS細胞をあらかじめ樹立しておき、「再生医療用iPS細胞バンク」を構築していくことを構想しているとご講演頂きました。

   中島美砂子先生

歯髄の再生医療実用化に向けた現状の問題点と今後の展望についてご講演頂きました。歯を長持ちさせることは、高齢者のQOL向上につながり、国民の医療費削減に寄与すること、歯髄を保存することが歯の延命につながること等の内容でした。現在、歯髄幹細胞および遊走因子G-CSFを用いた新規の象牙質・歯髄再生治療法に臨床研究開発に取り組んでいること、歯髄再生治療をいち早く国民に提供できるよう、新規事業の創生を願っているが、現状では臨床研究や治験に関して必要以上の費用と時間がかかるため、企業参入が得られにくいとのことでした。適切な法整備、審査の迅速化・能率化が必要であると力説されていました。


第8回(視察)(平成2498日)

東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設(TWIns

実地視察及びディスカッション

 

東京女子医科大学と早稲田大学の共同研究施設であるTWInsを実地視察させて頂きました。「百聞は一見に如かず」とは、まさにこのことであり、現場での実際の研究、開発を直接見聞きし、現場原点主義者としてはわが国の再生医療を何としても実用化し、広く普及させることにより、現時点では有効な治療法の無い難病や慢性疾患に苦しむ多くの患者に福音となるよう決意を新たにしたところです。

 

今後に向けて

再生医療分野において、現在、日本では、優秀な研究者が優れたアイディアの実用化に向けて日夜、尽力されておられます。これまで議連でご講演頂いた先生方のご専門も、心臓、肝臓、眼、中枢神経(脳・脊髄)、膝関節、歯など極めて多岐にわたり、いかに再生医療が未来の医療として幅広く有望な分野であるかを実感して頂けると思います。

再生医療は、主として加工・培養されたヒトの細胞を用いた治療方法であり、従来では治療困難とされてきた疾病に新たな治療の途を開くとともに、糖尿病等の慢性疾患に対しても根本的な治療を可能にするものとして期待が高いのです。

また、再生医療は、医療技術に理工学的な知識・技術を融合させた新たな治療方法であることから、高度かつ洗練された幅広い技術力を有する我が国に比較優位があり、日本は世界から高く期待されています。

しかしながら、我が国における「再生医療」への取り組みは、京都大学山中教授のノーベル賞受賞に見られるように、研究活動においては世界のトップレベルにあるにもかかわらず、その実用化においては、欧米はおろか後発の韓国にすら大きく後れを取っており、その格差は拡大の一途を辿っています。

現行法制(薬事法、医師法)の下では、再生医療について、その特質に応じた定義がなく、結果として規制の在り方も再生医療の特質に見合ったものとなっていません。このことは、第一線で再生医療に従事されている研究者、医師の活動に過重な負担が生じていることを議連でご講演頂いたすべてのご講師が指摘されました。安全性の担保は重要な観点ですが、しかし、特に自己細胞を利用する個別性の要素がきわめて高い再生医療に対し、一般の不特定多数の方々への販売を前提とする低分子化合物への薬事法の規制と同様の規制を課すことは適切ではありません。今回のご講師の先生方から、規制の在り方について、再生医療の特質に見合った柔軟な内容すべきであるとのご指摘(規制内容の合理性についての再検討や、事務負担の軽減)を頂きました。

再生医療は、これまで治療法のなかった疾病・傷害の根本的治癒や患者のQOL向上をもたらす革新的な技術です。再生医療の実用化の加速をわが国の重要施策として打ち出すべきです。世界に先駆けて高齢社会に突入している日本において、将来を見据えた政策を打ち出すのであれば、再生医療の推進は重要な柱の一つです。

日本が再生医療の分野で世界標準をとることで、今後、日本に続いて次々と高齢化が進展する諸外国におけるモデルとなり、わが国同様多くの患者にとって福音となり、世界から尊敬される国となることができると期待しています。

そのための土壌を作るには、既存の法律の枠組みを見直すことは必須であり、同時に時間との勝負でもあります。再生医療の特質に見合った新法を制定すべく、引き続き、関係者の協力を得ながら議連において議論を深め、新法制定に向けての作業を一段とスピードアップしてまいります。